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ポール・オースター著・柴田元幸訳「内面からの報告書」を読んで

照る日曇る日第963回

前作「冬の日誌」が体の記憶を綴ったのに対して、これは作家の若き日の心の記憶を取り扱ったレポートのようなドキュメンタリーのような、半自叙伝のような、しかしまあ小説である。

1947年ニューアーク生まれのこの作家は私とは3歳違いなので、月旅行とかバトナム戦争とか学生反乱とか世界の歴史的事件をほぼ同時期に見聞きしたり体験したりしているはずなのだが、つらつら読んでいくと東西の2人の若者の人生経験のあまりの違いに愕然としてしまう。

けれどももはや忘れ去ってしまったはずの大過去の奥底まで潜りに潜って作者が発掘してきたあれやこれやの記憶の断片は極めて興味深いもので、こういう無酸素呼吸の沈潜がいかに精神生活の創造と再建に役立つものであるかを具体的に証明している。

私も棺桶に潜ったつもりでおのれの無意識下の意識を呼び覚ましてみようかなあ、と思ったり、思わなかったりしたことだった、

   アメリカも日本も中露もEUもシリアも朝鮮もない地球 蝶人