プロフェッサースネイプの杖がほしい

最近は、すっかりイギリスの春らしい肌寒い日が多くなった。去年の今頃も確かそれほど気温は上がらず、1ヶ月前の夏日を記録したくらいの快適気候が例外だったと思えば、普通に納得のいく天気である。

そうは言っても、今日は陽射しも明るく金曜だということも手伝い、気分良く午後を過ごしている。

さて、先週の金曜は、マルタから義母と甥がヒースローに到着したのを息子と迎えに行ったのであるが、同じ金曜である今日は特に面倒くさい用事もなく、息子は親友のKVんちへ学校から一緒に帰っているはずであるから、会社が終わったらそこへ合流し、貴重な気の合うママ友達であるKVの母シリアスとおしゃべりを楽しむという、わくわくの時間が待っていると思うと、さらにテンションが上がる。

義母と甥を先日水曜に無事に空港まで送り届け、私の拷問週は終了したが、義母は、肝心の自分の息子、つまり私の夫がまるで父親として機能しておらず、迷惑ばかりをかけているという現状もあり、私には感謝して止まないという姿勢で接してくれるために、通常の姑という煩わしい感覚はないので、助かっている。

だが、基本的にマルタ人であり自己中で空気が読めず精神的に未熟だと思える行動が多く見られることもあり、またテンションも異様に高かったりするため、長時間一緒にいるのは疲労がたまるのは当然であり、うちの狭いフラットに5泊もしてくれたわけであるが、今振り返ると、本当によく頑張ったと達成感でいっぱいである。

ほとんど買物三昧になるということは覚悟していたが、実は、三流服飾雑貨店のPrimark(プライマーク)で購入するための超巨大リストは、今回はなかったので驚いた。なぜかと問うと

「KK(私の息子)とりーあに会いに来たのだから、買物で時間を使いたくない。買物よりも観光がしたい」と甥が答えた。

これには胸打たれ、彼らが来る前から買物大会になるぞ、と息子に散々文句を言っていた自分の行動を反省した。

が、リストを用意して来なかったのは、お目当てのプライマークがうちの近所にはないということを、すでにネットで確認していたからに過ぎなかった。しかも、金曜の夜に到着し、結局は、土曜の午前と午後2時くらいまで、日曜ほぼ半日、月曜の半日、火曜終日、水曜の半日と、毎日買物をしていたわけであるので、私の予想は大当たりであった。

25歳の甥は、おしゃれで買物が大好きである。そのため、初日の土曜の朝から妹や母親のために、プライマークで上着やらサンダルやらショートパンツやらを物色し、写メをして了解を得たら購入する、ということを繰り返すこと2時間。

その間、息子KKと私は、長時間過ごす必要のない、しかも誰か知り合いに見られでもしたら恥ずかしくなる、格安洋品店プライマークの、しかも婦人服売り場の片隅でゲーム大会となった。

プライマークが終わっても、「パウンドショップ」つまり100均のような雑貨店で爆買いする2人を、ただ後ろからついていく我々親子。

マルタは、ちっさい島国であるため、雑貨等を含む日用品はほとんどが輸入品となり、それだけで価格が高い。イギリスのほうが安いということは否定しないが、わざわざ長時間、長距離を運ぶ意味が不明な価値の低いもの、歯磨き粉とか洗濯バサミとか、近所で買物をする感覚で大量に消耗品を購入するのである。

息子にも、何か欲しいものはないか、と尋ねる義母であったが、そもそもうちの息子はそれほど物欲がないというか、地味な日本人母の私と同じで、質の高くて割安な製品を日本で知ってしまっているために、安いから、という理由で安易に、別にたいして欲しくないものを購入することは無いのである。安いものはすぐに壊れるし、しょぼいから結局は金の無駄遣いとなるのだ、と文句を言う私を目のあたりにしている息子であるし。

しかも、息子は、この土曜の夕方に予約していた、「ハリーポッタースタジオ」で、好きなものを買っていい、と義母から言われ、そのために自分の思いを溜めていたのだった。しょぼいものを大量に買うのならば、高くても本当に欲しいものを買うのだ、と。

だが、その息子の企みは、無残にも砕け散った。

スタジオツアーを終え、土産物屋で息子が夢中になったのは、重要な登場人物たちが使用した「杖」。1つ1つデザインが違うものを、嬉しそうに確認していた息子に、脇から「この玩具はどうだ?」とか「もっと実用的に本はどう?」とか、なんとか諦めさせようと躍起になる義母。

息子は、物語の最重要人物であるスネイプが大好きであり、大好きなマインクラフトでも自分のスキンをスネイプにしているほどであるため、迷いもなく、スネイプの杖が欲しいと言った。

が、何の役にも立たない杖が30ポンドもするという事実に驚愕し、義母は別のものをどんどん薦め、本に落ち着こうとするも、ほとんど読んでしまっているから、今さら欲しい本などない、本であれば最新の「カーストチャイルド」が欲しいという息子。

だが、最新の本は高すぎるため、これは無理だから古い本で落ち着くしかないと妥協させた。

こういう場合、日本語が大活躍である。堂々と息子に説明し同情し納得させることができる一方で、その内容を他人に知られずにすむのであるから。

合理的な我が息子らしく、プライマークやパウンドショップで何も買わなかったのだから、ここでその分を使いたいのだ、と、まるで納得がいかずに悔しそうであった。

本当に理不尽であるのだが、「何でも好きなものを買っていい」などと、できもしない約束をなぜするか。毎度のことなので驚きはしないが。

魔法使いの杖など、何の役にも立たないし、数ヶ月後には興味がなくなっているかもしれない。だが、今のこの瞬間に、これほどまで欲しいと思える物を今買ってやるというのは、すごく重要であると思えてならない。子供のそういう感性は大切にしてあげたいと、かなり現実的で実用主義の私でさえ思っている。

代替案として、キングス・クロス駅のハリーポッターの土産物屋で、このスネイプの杖を買ってあげようと思う。誕生日ももうすぐだし、今年は杖か。そんなプレゼントは最初で最後であろう。