大作曲家の演奏で居眠りをした強者

 クラシックを聴くと眠くなるという人は結構いらっしゃいます。

 でも、それほど悲観しなくても大丈夫です。当のクラシックの作曲家自身がクラシック(当時の現代音楽)を聴きながら居眠りしてしまったという話があるのです。それも、学校の音楽室に飾られている数ある厳めしい顔の肖像画の中でも、とりわけ厳めしい顔をしたブラームスがやらかしてくれました。

 この人は、20歳のころ、すでに作曲家・演奏家として名を馳せていたリストを訪ねたことがあり、その折、リストがピアノを演奏している最中にうっかり居眠りをするという失態を演じてしまったらしいのです。

 リストは寛大な人物だったので、そんなことはまったく気にしなかったようですが、ブラームスの方で、リストにいろいろ音楽方面の出世の手づるを頼んでは申しわけないと思ったのか、彼はリストを諦め、シューマンを頼ることになったと云われています。

 まぁ、事の真偽となると、少々怪しいところもあるようですが、こうしたことは、黒白はっきりするまでは、あったと思っておいた方が面白いのは確かでしょうね。

 

 そんなブラームスをおちょくったわけではないでしょうが、この人の最もよく知られた作品であるハンガリー舞曲第5番を、チャップリンは、映画『独裁者』の中で、こんなシーンのBGMとして用いています。

https://www.youtube.com/watch?v=monaXOpmH1U

 また、フランソワーズ・サガン原作の小説『ブラームスはお好き』は、『さよならをもう一度』というタイトルで映画化され、ブラームス交響曲第3番の第3楽章がこの映画のテーマ音楽のように使われています。

https://www.youtube.com/watch?v=WCBoz0ls57k

 ブラームスという人は、もちろん居眠りばかりしていたわけではなく、それなりに気の利いたことも言っています。

 例えば、ブラームスを主賓としたパーティでは、こんなことがありました。

 その家の主人が、「さあ、皆さん、わが家とっておきのワインを召し上がって下さい。これはワインのブラームスといえるものです」と、ブラームスを持ち上げてワインを勧めました。ところが、そのワインを一口味わって好きになれなかったブラームスは、好みでないので別のものを、という意味のことを、主人が不快にならないように、伝えたのですが、その伝え方が、次のような実に絶妙なものであったと云われています。

 「すみませんが御主人、お宅のベートーベンを出していただけないでしょうか?」。

 なるほど、粋です。主人が不快な思いをしないように、ちょっと自分をおとしめつつ、言いにくいこともちゃんと伝えています(私も主賓とされるパーティがあったらこの手を使おうと待ち構えているのですが、なかなか主賓にしてもらえなくて(笑))。

 ヨハン・シュトラウス?世の娘が扇を差し出して、ブラームスにサインをねだってきたときにも、ブラームスは次のように応じています。

 彼はまず、その娘の父親が作曲した『美しく青きドナウ』の旋律の一部を書き、それに続けて、「残念ながら、これは私の作曲ではない」と書き添えたということです。

 ここでも、相手をたてる配慮は怠っていないのです。

 ただ、これほど見事に相手をたてることができる人なのに、ときどきやたらと無愛想になることがあったようです。

 例えば、ある女性が“もしも私が小鳥だったら”という歌をブラームスに聴かせたところ、歌い方が気に入らなかったブラームスは、「もしも私が猫を飼っていたら、あなたに贈るのだが」という即興の歌をごく小さい声で歌ったという意地悪なエピソードも遺っています。

 まぁ、人間、なかなか完璧にはなれないものです(だから、居眠りもするのでしょうが)。

 今日は、そんなブラームスの120回目の命日です。